高炭水化物食餌投与マウスに見る、
蚕抽出物のα-グルコシターゼ活性に及ぼす影響(3)
チョンソンヒョン・キムミソン・柳江善
慶熙大学 薬学大学 薬物学教室 蚕糸昆虫研究所
結果と考察
1.蚕抽出物の、高炭水化物食餌投与マウスにおける、血糖およびインスリン含量に及ぼす影響
図1に見るとおり、一般飼料を与えた群に比べて高炭水化物食餌を与えた群では2週目から、体重増加が早い様相が顕著であり、この現象は6週目まで続き、8週以降からは二つの群に差異は現れなかった。蚕抽出物試料を含有した高炭水化物食餌投与群は、高炭水化物食餌対照群と比較するとき、全実験期間を通して体重変化に関して有意な差異を示すことがなかった。反面、acarboseの含有群では、高炭水化物食餌対照群と比較すると、2週目から実験終了まで、体重増加のはっきりとした鈍化を現した。このような現象は飼料摂取量における、各群の差異はない状態で観察された。各群間における体重増加の幅を比較すると、次の<表2>のようになる。
血中ブドウ糖含量は、2週毎に、また、インスリンについては実験終了後に測定した。
図2(A)は、一般飼料投与群と高炭水化物食餌投与群間の血糖値変化を比較した図で、実験開始2週目以降、全期間において明らかに二つの群間に血糖値の違いがある事を示している。図1に見るとおり、実験終了時期に、両群間において体重は違いを現すことがなかったが、血糖値の場合は10週目にもlean群に比べて、高炭水化物食餌投与群は、有意な違いを示した。一方、血糖値は体重の増加に伴い両群において共通して増加する様相を呈し、生後9週目からは(図では6週)血糖値がそれ以上、大幅に高くなることはなかった。
図2(B)は、蚕抽出物投与群と高炭水化物食餌投与対照群の、血糖値を比較した図である。蚕抽出物の場合は、投与4週目から、対照群に比べて有意な血糖値減少を示し、acarboseの場合は、投与2週目から、明らかな血糖値の減少を示したが、このような減少活性は、全期間において現れた。
実験開始から10週目に各群の血液中のインスリン含量を比較した結果、図3に示したとおり、高炭水化物食餌対照群は、一般飼料群に比べてインスリンの平均値が2倍以上上昇する高インスリン血症を現した。Acarbose投与群は、対照群と比較するとき、かなりのインスリン分泌抑制活性を示し、その平均値がlean群とほぼ同じ水準まで抑えられている事を示している。
一方、蚕抽出物投与群もまた、対照群に比べてインスリン含量が明らかに落ちており、平均値はacarbose投与群と対照群の中間程度で、グループ内マウスのインスリン含量は、全般的に低い分布を示した。
結果として、高炭水化物食餌を与えたマウスは、一般食餌群と比較して体重に有意差が認められなかったにもかかわらず、肥満の時と同じような高インスリン血症を現した。これは、一般食餌群に比べて、インスリン抵抗性があると言うことを示唆するものである。蚕抽出物やacarboseを含んだ高炭水化物食餌群で、このような高インスリン血症が改善されたのは、これらの物質の小腸内グリコシターゼ活性抑制によって、食後の血糖上昇がにぶくなり、不必要なインスリンの分泌が抑制された結果と解釈することが出来る。
2.高炭水化物食餌投与マウスにおいて、蚕抽出物が小腸内α―グルコシターゼ活性に及ぼす影響
本実験では高炭水化物食餌投与マウスに、長期間にわたり蚕抽出物飼料を与えたときに起こる、マウスの小腸内グルコシターゼ活性の変化を観察するため、小腸を3等分し、各 segmentで、maltase, sucrase およびlactaseの活性と、タンパク質総量を測定して、mg当たりの各酵素の活性を測定、比較した。
1)Maltase活性の結果
一般飼料投与群と高炭水化物食餌投与群間のmaltase活性を比較した図で、一般飼料投与群(lean group)ではproximalで、酵素活性がもっとも大きく、下の部位へ下るほど減っていく様相を呈し、middleとdistalの部分は似たような程度のmaltase活性を現した(図4(A))。一方、高炭水化物食餌投与群においては、小腸の全部分で酵素活性の増加をみとめることができ、特にmiddleとdisital部分では99%の有意性で、酵素活性が大幅に誘導された。
高炭水化物食餌投与群と、これに蚕抽出物飼料を合わせて投与した群の間でmaltase酵素活性を比較、測定した結果、図4(B)が示すように蚕抽出物を長期間投与した群では、middleとdistal部位でmaltase酵素活性の増加がみとめられ、特にdistal部位で、酵素活性が大幅な増加をみせた。一方、proximal部位では、対照群との比較で有意な酵素活性の差異をみとめることが出来なかった。
2)sucrase活性
図5(A)は、一般投与群と高炭水化物食餌投与群間のsucrase活性を比較した図で、一般飼料投与群では、maltase活性と同様に、proximalで酵素活性がもっとも大きく、下の部位へ下りてゆくほどに少なくなる様相を呈し、middleとdistal部分は、ほとんど同じsucrase活性をあらわした。一方、高炭水化物食餌投与群では、小腸の全部分において酵素活性の大幅な増加がみられ、特にmiddleとdistal部分で、酵素活性が大幅に誘導された。このような現象はRamaswamyとFlint(1980)が、糖尿マウスで報告した結果と一致する。
図5(B)は、高炭水化物食餌投与群と、これに蚕抽出物飼料を加えて与えた群間で、sucrase酵素活性を比較、測定した図で、示したとおり、蚕抽出物を長期間投与したグループのmiddle部位で、sucrase酵素活性が大きく増加した。その反面、proximalとdistal部位では、対照群と比較したとき酵素活性の差異をみとめることが出来なかった。
3)Lactase活性
図6(A)は一般飼料投与群と高炭水化物食餌投与群間のlactase活性を比較した図で、一般飼料投与群では、酵素活性がproximalからdistalへと行くほど、活性が顕著に減少する様相を示した反面、高炭水化物食餌投与群では、このような様相はなくなり、proximalではかえって酵素活性が一般飼料群に比べて小さく、逆にmiddle部位では比較群に比べて、大幅に増加する様相を現した。糖尿もしくは肥満モデルによっては、正常マウスとの間にlactase酵素活性に、差異がある場合とない場合が一緒に報告されている事実をかんがみて、この酵素の調節メカニズムが、動物モデルによって異なる様相を呈すことがわかる。(Caspary等 1972、Younosazai等 1972、RamasawamyとPeterson 1978)。
図6(B)は、高炭水化物食餌投与群と、これに蚕抽出物飼料を加えて投与した群間のlactase酵素活性を比較、測定した図で、蚕抽出物を長期間投与したグループで、小腸の全部位にかけてlactase酵素の活性が増加する傾向を見せており、特にdistal部位において99%の有意性で酵素活性が大きく誘導されるということを確認することが出来る。本実験の結果、一般食餌投与群よりも、高炭水化物食餌投与群の方で、maltase、sucraseとlactase酵素の活性が全般的に増加し(特にmiddleとdistal部位において。)、蚕抽出物飼料を長期間投与したグループでは、高炭水化物食餌対照群に見られる酵素活性の増加様相が、より際だっていることが見て取れる。これは、小腸内グルコシターゼ酵素抑制の働きが大きい蚕抽出物を、長期間投与したときに、小腸上部で吸収されなかった糖(構造にαおよびβ glycoside結合を持つ)が、小腸内middleもしくはdistal部位に到達してから、酵素活性を補足的に大幅に増加させたのではないかと推測することが出来る。従って、糖尿もしくは、肥満の治療剤として使用可能なα―グルコシターゼ阻害剤を、長期間使用するとき、酵素活性の増加によって薬物投与量の調節は避けられないということを示唆している。このような、グルコシターゼ酵素活性の変化メカニズムについては、これから先、より多くの研究が必要だと思われる。
摘要
高炭水化物食餌投与マウスにおいて、蚕抽出物が、マウスの体重変化、血中ブドウ糖およびインスリン濃度、および小腸内α-グルコシターゼの部位別酵素活性に及ぼす効果について実験した結果、以下の結論を得るに至った。
1. 高炭水化物食餌対照群と比較したとき、蚕抽出物投与群の体重には変化が無い反面、血中ブドウ糖とインスリン含量は、対照群に比べて有意に減少を示した。
2. 一般食餌投与群よりも高炭水化物食餌投与群の方で、maltase、sucraseとlactase酵素活性が全般的に、より増加し(特にmiddleとdistal部位で)、蚕抽出物飼料を10週間投与したグループでは、高炭水化物食餌対照群で見られた酵素活性の増加様相が、より際だっている事が観察された。
謝辞
本研究は、1996年度 農村振興庁 農業特定研究課題研究費の支援によって行われた。

